• Kay Koba

リペアのゴールを決めるという作業




最近他社で行った作業の再修理という内容の修理がいささか多いのですが、他社様の悪口をいうわけには流石に行かないし、言ったところで悪口の言い合いになってしまい同じリペアマンとしてはお客さんにとっても居心地のいいものではないのではと思います。そこで事実をお伝えするとともに若いリペアマンやお客さんに向けての僕なりの考え方を伝えたいと思います。


作業は終わりがない


修理の作業というのは当たり前ですが工数を多く取りリスクマネージメントを完全に行いながら作業したほうが、見た目の仕上がりや内容にも反映され作業者もお客さんも十分に満足の行くものとなります。当然自分で考えた必要工数を全て埋めていくと相当な時間がかかるものとなります。リペアマンはやはり経験がものを言います。もちろん持ち持った才能もありますが、それだけでは駄目なのです。才能がある人は単純作業を嫌います。単純作業そのものは如何に楽しむかで毎日の生活も変わってきます。そういうところも含めた経験なのです。百戦錬磨の社長や政治家が決断を下すのに時間がかからないのは、それを裏付ける経験があるからで、経験もないのに闇雲に決めてしまうと才があっても失敗に繋がります。・・・しかし人間はそこから学ぶのです。

 作業が出来て修理を完結させられるという事と、完璧な工数で見積もりの設計図をもとに適切な工数で美しい仕事ができるということは別問題です。僕も若いころはこんなに緻密な考え方を持ってやっていたとは言えず、行き当たりばったりな要素もたくさんあったと思います。



 フレット交換のページを見てもらうとわかりますが、非常に多くの工数と確認作業から成り立つのがわかると思います。作業者というのは波に乗って作業が非常に楽しくなってしまうと早く仕上げたくなります。そういうテンポも大事なのですが、そういうときに限って確認作業を怠ってしまいがちです。後々そういうミスがトラブルになったりするのです。

推理力をもとに作業ごとの検査確認作業、顛末の想像それが全てとも思えます。それができない人は修理に不向きとも思えます。


苦手なことは避けるべきか


 木工が得意な人は電気が苦手とか、金属加工はやらないであるとかリペアマンにはナンセンスなことを言う人がいますがある意味逃げだと僕は考えています。もちろんそれらを度外視しつつ仕事が来ればそれもありだとは思いますが、この仕事をやっている限りそういった作業を並行することはたくさんあります。何がいいたいかというと自分の可能性を閉ざしていないかということです。

 僕は木工や電気は28年間リペアマンを続けながらたくさん勉強してきました。12年ほど前から金属加工も学んでいます。それがどういうことに繋がるのかというと、例えば自分の知らない未知の工具に出会ったり金属加工から木工へ応用が効いたり良いことばかりなのです。


旋盤でストラップピンの加工を行っている。テールピースにマウントするためはめ込みをテーパー上に加工。

エレキギターといえば木材なのですが、ハードウェアはすべて金属です。販売終了しているものは何が何でも修理しないとその楽器は復活できません。自社で出来ない作業を外注に降るにしろ、作業自体の概要を知っていないことにはお客さんに説明すら出来ないのです。

 全てを知り、攻略すると頭の中もかなり自由になります。お客さんのお財布が許すのであればはっきり言って何でも出来てしまいます。作業を断るにしろ知らないから出来ない・・・のではなく、コストが合わないから断るというポジティブなものになっていきます。人間は人間の作るものなら何でもコピーできるのです。


よりお客さんに寄り添った修理


一人で修理をしているとゴールの置き方を間違えて自分よがりな修理内容になってきます。作業者が2人以上になると、従業員の序列を取っ払ってお互いにダメ出しを出来るようにしておくと良いと思います。そのようなことだけでも作業途中を垣間見ますから、自分の作業のあらを拾えるきっかけになります。若いリペアマンへ・・・一人で作業をする場合はもう一人の自分を置き、お客さんが傍らで見ているような意識を持ってください。必ず仕上がりが変わってきますので毎日続けてください。

先日ネック折れの修理をしました。画像左は作業前で他店で修理されたネック折れ修理で、右が当社でそれを修理し直したものです。


左がお預かりしたときの状態。全体的に目やせしており、接着面がズレてきていました。右が弊社で施工後。補強材を貼って下地より完璧に塗装を仕上げた状態。折れ目は無く、よく見ると補強材がスカーフ上に入っている。

ネック折れというのは思った以上に工数の必要な作業で、たとえラッカーであっても中途半端にオーバーコートすると割れ目が浮き出したり、塗装の段差が出てしまいます。またシースルーの塗装はクリアーに混ぜた染料で着色しますので、色を重ねると重ねた分だけ黒っぽくなってしまいます。(*ウェブで検索し出てくるネック折れの修理はオーバーコートにより折れ部分が黒っぽくなってしまっているものが多いのが残念です・・・。)ヒールまで完全に剥離してから同じ工程で塗り込んでいけば確実な仕上がりになります。また、接着剤はタイトボンドは避けたほうが良いでしょう。リペアマンは数年後の経年変化まで読まなくてはいけません。湿気の影響をうけやすいので、完全に面出しした接着には良いですが折れた先端は湿気で膨張するので木目が完全に重なることは出来ないのです。弊社で使用しているのは生体接着に優れたスーパーボンドを使用しています。これは歯科医が義歯接着にしようるもので20000円ぐらいする高価なものですが、接着後は接着を外すことはほぼ無理です。強靭な接着力を誇ります。もちろんこの接着剤では安く直してくれというのはおわかりかと思いますが・・・絶対に無理です。

画像のネックは安く直した結果と思います。これはリペアマンが悪いとは思いますが、お客さんも悪いかもしれません。ネック折れというのは接着剤だけでも高いというのは言いましたが

非常に工数の多くかかる修理で、数万円で修理することはほぼ不能です。これをただ接着のみ行い、適当に筆指しして終わりというのは作業者にとっても自分のポテンシャルを生かせずあまりにも悲しい作業です。

もちろんお金が出せないというお客様にはこのような修理を行うショップが必要なのですが、完璧な修理を行わないということは作業者にとってもかなりリスクを伴います。再度折れたといって持ってきても自分の責任ではない・・・となるからです。では誰の責任(?)であるのでしょうか。それはやはりゴール(着地点)を決めた人の責任です。お店であってもお客さんであっても・・・です。


自分のゴールは自分で決める





よく修理金額を値切られたという話を聞きます。弊社では幸いそのようなお客さんは余り居ませんが、ギター業界での作業工賃と物販との違いを説明します。

例えばOO楽器店で楽器を購入。販売価格から2000円値切ったとします。でお客さん喜んだ。また値切ろう・・・というサイクルですが、これはアリです(笑)何故かと言うと楽器は定価があり35~40%ぐらいの原価(楽器は原価が高いのです)でメーカーから55~70%でお店に卸します。これに対して15%引きとか30%引きとかで商売します。例えばそこから5%引いても利益があります・・・もっと言うと小売店であれば一人が1日に100本のギターを売ることも可能です。僕も過去にブローカーとして半日で180本のアウトレットギターが完売したということがあります。

これを修理工賃に置き換えます。修理工賃というのはそもそもが原価>利益換算をしていません(?!)なので100%原価であり利益でもあります。これを値切ると言うのはお前は乞食だから冷めた飯でも食っとけということに変わりありません。そして1一日に100本の修理・・・絶対無理です!これは修理に係る全ての作業者&お客さんも意識しておかなくてはいけない仕組みです。この仕組を知らずして依頼を受けるので日本の作業工賃はどんな分野でも世界的に見て全体的に安く地位も低いのです。

ただ高く修理するというだけではもちろんお客さんは来ませんから、それを踏まえた上でリーズナブルに修理することに特化するとする。もちろん工数を落とさないと安く出来ませんが、ではどういった妥協点を持つのでしょうか。医者であれば全力の修理(?)を行う場合保険適用外という方法があり、より高度な技術で最高の治療を受けることが出来ます。それ以外のまあまあな治療は保険内となります。





 ではギターのリペアはどうするか。これに関しては「全てを全力で行くしかない」と思っています。他社と比べて退けを取るような作業であれば端からやらなければ良いことで、それでなにしろお客さんが引け目を感じてはいけない。お客さんが人に自慢できる最高の仕上がりにしたい。そう思っていれば安い飯でも旨く感じるのです。世界的レベルで見ると日本のリペア技術は残念ながら高くはありません。(*かといって低くもありませんが・・・)僕は日本人的な管理観念でより底上げをできたらと日々思っています。それには他社の技術を盗むぐらいの洞察力でチャレンジしてほしいです。最高のジャパンクオリティーをリペアにも向けたい・・・これが僕の想いです。もちろん価格もギリギリに設定せざるを得ません・・・。これは現状どうにもならないのです。弊社ではビッグボーイ小林、天野G、そして僕が目一杯頑張ってやっと食える状態ですが、一日を大事に作業し充実して生活が出来ていると思います。

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