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良い職人になりたい!


職人としてのゴールとは日銭稼ぎとは縁遠い・・・。僕が思うことの一つに自分の仕事の着地点をしっかりと定めると言うことにあります。技術は勿論お客さんからもらうお金のこともそうです。他人からやれ安いからもっともらったほうが良いとか、高いから安くしろとか言われても自分の仕事のゴールがしっかり見えている人はその覚悟にゆらぎはありません。僕には僕の金額があるからコレで良いんだ。と言い切るのみです。

天野Gの作業

僕が丁稚奉公時代に小売店でリペアをやっていて、どうしてもうまくいかない修理があったのです。で当時の僕が慕ってた先輩リペアマン(ビルダー)に何処がだめなのか聞くと、なんと全て工程の工数が全然足りていなかったのです。要は42.195KMを10KMで終わらせ金メダルを取ろうとしていた「小僧の考え」がそこにはありました。その助言を元に僕は何日か徹夜してやっとのことで終わらせた決死のリペアは、勿論今見てもいい仕事ではないかと思います。

 定価の決まった仕事を「もっと手を抜いていいから安くやってよ。使えてばいいから。」という人、それを受けるリペアマンが少なからず居ます。しかもホームページにそれを書いちゃっている人もいます(笑)人それぞれの考え方があるから僕はそれについてはとやかくいうつもりもないし、正直に言うと逆にそういう人も居ないと住み分けができなくなってしまうからかえって良いのか(?)と思います。

例を挙げると弊社ではネック折れの修理は完璧に治す方法しか提供していません。言い方悪いですけど、そのままくっつけて木の段差が出たところを研いで、適当にオーバースプレーして終わりってやり方はしません。その方法だと工数を踏まないからたしかに安く出来、くっつけるだけなのでこちらとしても楽です。

 僕の工数は、まず木の繊維を弦の張力と逆方向に引っ張って面位置に戻す。この時点で段差などは起きませんし完全の面あたりで接着できるということ。接着剤は本来手に入らない歯科医師が使用する超強力なものを使用しており、接着剤だけで20,000円以上しますしすぐダメになるので長期保管できません。

よくタイトボンドで接着する人が居ますがコレは水溶性で湿気の影響を受け、塗装面の目やせがし易いです。僕も経験が浅い時代はニカワやタイトボンドを多用していましたが、今は使いません。

 それから補強、木が欠けている場合パッチを当てる場合もありますが目立たないように木の色と木目を合わせます。それから塗装は可能な限り剥がす。レスポールならヒールのジョイントまで完全剥離して、パターンが変わらないように塗り直します。こうして修理したギターは折れ跡が殆どわからないと評判になりました。ちなみにこの工数を全部やって¥84,000-(税抜)です。金額だけ考えると高いと思うかもしれませんがギリギリの価格なのです。施工ギターは殆どギブソン製のギターなのでニトロセルロースラッカー塗装だけでも仕上げるのに2~4週間かかります。弊社は小さい工房なのでBIGBOY小林とマスター天野と僕の3人で目一杯働いてはっきり言ってギリギリの数字なんですねー(笑)。まあ、コレについてグズグズ言っても笑い話ですが。

で、コレを工数落として安くやるとしましょう。「2万でやってよ」判りました!接着だけですね~(そのほうが儲かるぜ!)なんて仕事は受けません。

そこでさっきの話なんです。42.195KMを10KMで終わらせ金メダルを取ろうとしていた小僧(昔の僕)のやり方はそれに慣れると「どうやったら42.195KM走って金メダル取れるのかの着地点が判らなくなり、自分にとってのベストな良い仕事ができなくなってしまうから」なのです。競技と違って修理の世界はたとえ100Mだけ走っても払う顧客がいればその人の金メダルになります。しかし末路は見えていてその金メダルのメッキが剥がれてくると何の金属だかわからなくなってきます。

 能書きが多くなってしまいましたが、最後に良い職人は良い研究者でもあります。僕は来月で47歳ですが、20歳の時から研究して自慢できることは1年前の自分より良い仕事が出来ているということです。前回の仕事よりもうまく仕上げるということを重ねていけば腕はあがります。そこへ研究も加味され新しい技術の導入などでどんどん進化していきます。逆説的に安くやろうと考える人はだんだん退化して行ってしまいます。お客さんに渡すときも物を見せて判断してもらうのではなく、専門用語で鎧を着せた言葉でなぜこんな仕上がりなのか言葉巧みに言い訳する形になります。これはプロとして最悪です。技術者のデフレとも言えます。

とまあ、こんな理由があって、弊社では弊社がベストと思う工数でのみ仕事を行っています。

おかげさまで、きちんと直したいというお客さんが絶えず来社されます。僕としてはそれに答えるべく仕事をするだけです。作業内容・工期・値段をしっかりお伝えしたうえでもしも他社に流れていってしまうのであれば、弊社の顧客にならなかったことは誠に残念ではありますが上の方で書いたとおり住み分けという部分でそれはそれで良いことなのだと思いますし、嫉妬心は全く起きません。僕は僕の工数で仕事ができて本当に幸せだと感じます。これからも日々精進っですね!


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