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フレット交換のススメ


どんなに弾き方が上手くともフレットは使えば減るもので、減ってしまえば交換が必要です。弊社でも圧倒的に施工本数が多いのがフレット周りの修理となります。

フレット交換については色々な思案、不安な点もあるかと思います。そこで僕が考えるフレット交換のベストとは何かをお伝えしたいと思います。

当社が行う一般的なフレット交換工法

フレットはフレットだけを交換すればいいわけではなく、実際の作業の流れは:

①弦を張った状態で指板上の状態の確認~②ジグにセットし弦の張力を保持~③フレットの取り外し~④指板の修正(塗装がある場合は指板の塗装)~⑤フレットの取り付け(フレットの脚と溝の厚みを合わせる)~⑥実際に弦を張り張力がかかった状態で矯正~⑦すり合わせ~⑧整形/研磨~⑨調整(セットアップ)

となります。ナット交換の必要な場合は⑥の前に行い、⑨時に溝調整をします。いずれの工程も端折る(はしょる)ところはなく、集中力と工数のかかる作業なので一日で終えるということはありません。ネックの動きが大きい個体では1週間⑥の作業を行います。パートごとに分担して(3人で)作業しています。複数人で作業すると客観的に見れ細かいダメ出しが出来、安定した完成度を提供出来ます。これも個人でやっている人と違う大きなメリットです。

余談ですが最近のアメリカ製ハイエンドギターでは新品製造時でも同じような工数を踏んでいます。それ専用のジグを使い弦を張ったテンションを再現し、各社独自の工法を取っているのが面白いと思いました。

使用するフレット

当社では主にStewmac製のものとJescar製のものを併用して使用しています。昔はジムダンロップをよく使いましたが、近年のものは形にバラツキがあり精度が良くないことから使用していません。様々なサイズがありますので、弊社に在庫のないものはお取り寄せとなります。*国内に無いサイズでもアメリカより取り寄せます。*卸価格で買いますのでお客様が買い持ち込まれるより安く上がります。

最近ではJescar製SSフレットの要望が多いように感じます。生音では巻弦側倍音が若干シャリシャリするのですが、アンプ音ではほぼ再現せず逆にローが締まった感じになります。硬い素材なので減りにくく長期間の使用が魅力です。

Stewmac製は精度もよく価格も安いので特に指定がない場合、幅と高さを測定して同じぐらいのフレットを検討し弊社でもよく使用します。一般的なサイズが常時在庫あります。

フレットのあら取りをしているES-335

Plek VS Neckjig

最近Plekを採用しているリペアーショップがありますが、弊社では採用しておりません。導入メリットしてはリペアーの経験がなくともネックの状態を計測し適度なフレットの高さですり合わせができる点です。すり合わせとはそもそも削る箇所は削り、残すところを残すべき作業ですので経験のないリペアマンは余計なところまで削ってしまう傾向があります。これがきちんと出来ないとすり合わせになりません。この点は弊社のこだわる職人気質が無ければPlekが良いとなるでしょうね。*僕が個人的にオモシロイと思ったのはナット溝まで掘ることができるという点でした。

デメリットとしてはギターを立てて計測するので、実際に演奏する向きで設置した状態で、楽器が横に向いた重力の加わった状態での計測が出来ないこと。弊社の使用しているNeckjigでは矯正時には実際に演奏する向きでセットできるため横にした状態をキープ出来、より適切な矯正が可能です。特に多弦ベースでは弦自体とヘッドの自重で楽器の角度が少しでも変わればネックの荷重がかなり移動しますので、真横で再現する反りが必ずあります。Plek自体は寝かせられませんから、これを再現するのは無理だと思います。

それともちろん今回のテーマは交換ですが、Plekはすり合わせマシーンですので指板修正もフレット交換も出来ません。フレット交換は上記で述べた工法が僕の知る限りベストだと思います。

実際にギターを預かり測定するとフレット上の問題よりも指板上の歪みが問題のことが多いです。ロッド調整で波打つ場合など、指板自体の歪みは指板修正しないとどうにもなりません。

理論的には「真っ直ぐな指板に対して、フレットを均等に打てば基本的にはすり合わせがいらない」と言うことになります。弊社の工法ではフレットのすり合わせ量はよほどのことがない場合、極わずかになりますのでフレットの高さを活かした仕上がりが可能です。

ダイヤルゲージの付いたNeckjig

ビンテージギターのフレット交換

弊社でも1/3ぐらいはヴィンテージギターのフレット交換です。ヴィンテージギターでは指板が薄く、指板自体の修正ができない場合も多くあります。その場合の指板修正はわずかとなり、フレットの高さで合わせます。

Fender製のギターでは通説では7.25inchの指板Rですがそのまま信じて指板を刷ると実際のRと異なる場合が多々あります。Mustang/Jaguar/Jazzmasetrでは計測すると6.5inchぐらいの場合も結構あります。これはどのネットの情報でも出てこないので、実際にものを測ってみないとわからないことです。Fender系では13Fあたりにくぼみが出来ますのでそこを底辺と考えて他のフレットを合わせて行きます。

よく、指板Rを平らに取ってしまう人がいますが、本来であればすり合わせの技術力が高ければフレット処理で音の詰まりは取ることが出来ます。

また、70年代のフェンダーではヒール幅が狭く、フレットから弦落ちがしやすくなってしまいますが、フレットエンドの処理でそれを防ぐことも可能です。エンドが45°程度で取っているものは0°で作り直し、水道管のエルボーのように丸く仕上げればスライド時もスムーズです。フレットの長さも最大で2ミリ延長できます。この処理は弾いたことがない人からすると不安でしかないのですが、実は施工後は皆さん喜ばれます。

Gibson系ではポジションマークが薄くなることが嫌でなければ、指板修正は割に頻繁に行っています。危惧するポイントとしてはオーバーバインディングでの処理ができないこと。バインディングの上にフレットが来る処理となります。しかし、この方がフレットが幅広く使え演奏性は格段に上がります。

ポジションマークの修正

フレット交換と同時に行えばきれいに仕上がることから、ポジションマークの入れ直し、修正、インレイの施工は同時進行をおすすめしています。

サイドポジションはフレットとあまり関連しませんので、単体での修理が可能です。飴色にネックと同化したポジションを白く見やすくしたいとの要望も稀に受けることがあります。

またバインディングの剥がれもフレット交換せずに行えます。

フレット交換とクロスインレイを同時に行った例。お客様の好みでフレットはフレットレスワンダーを使用。

フレット交換と同時にクロスインレイを入れた例

ギターの命綱

フレットはある意味命綱と言えます。一箇所音が出ないというギターがあれば、ピアノで言う鍵盤一つ音が出ないことと同じことです。最近では大手リサイクルショップやヤフオク、メルカリなどでギターを買う方が多いと思いますが、購入後不具合を感じすぐに持ち込まれるお客様も多いですね。フレット自体はロッド調整だけで治るところではないので、都度交換やすり合わせを行わないといけません。交換された方皆さんおっしゃいますが、フレットをやり直すとまるで別のギターみたいに弾くことが出来ますよね。

フレット交換¥35,000〜(セットアップ/パーツ代別途)

最後に当社のお客様で藤井進一さんというジャズギタリストがいらっしゃいます。ご指摘が的確で細かい調整を有するお客様ですが、リペアマンとしても非常にやりがいを感じ作業させていただくことが多いです。いわゆるギターのかゆいところ、美味しいところがよく分かる人。その藤井さんがプレイヤー目線からみたフレット交換の記事を書いていらっしゃいます。僕も読み返してなかなか鋭いなぁと思いました。フレット交換の参考まで、是非ご一読ください。


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